彼女のことが、好きだから
彼女のことが、好きだから
午前0時を過ぎた。
僕はネットを徘徊し、あらゆる天文写真をパソコンに落としている。
星って奥深いんだなと思いながら、とはいっても大してなにも考えずに美しい写真をどんどん落とす。どれもこれもきれいだ。でもきれいすぎる。素人の僕に、こんな写真撮れるはずがない。
「私は星が好きなの。メルヘンぶっちゃってって言われるからあまり人には言わないけどね」
今日の昼休み、彼女がそう言っていた。もちろん僕にじゃない。休憩室で誰かと話してるのを聞いただけだ。彼女とは同じ職場で仕事上の接点もあるから、ちょくちょく話はする。でも、仕事話の域を超えることはあまりない。非常時用に電話番号もメールアドレスも知っている。同じ歳だから、という訳ではないが、メールすることもある。ほとんどが同僚との飲み会の誘いだが。
僕は彼女が好きだ。はっきり言ってひとめぼれだ。彼女は僕のことを「素朴で優しそうな人」と言っているらしい。
誰かのブログで下手な星空の写真を見つけた。”流れ星みっけ!”というタイトルが付けられている。確かによく見ると線状の光が映ってる。ぶれてぼやけているのに写真は大きい。安いデジカメを使っているのか。手間が掛かるからデータは小さくしてくれと思いながら、とりあえずその写真を落とした。
ふと思いつき、僕は流れ星の写真を検索してみた。するとプロのようなきれいな写真が圧倒的に多く、素人くさい下手な写真は少ないことに気が付いた。突然カメラで撮るのは難しく、珍しいのではないかと考えた。さっきの写真は下手なのがリアルでいい。決めた。これにしよう。
僕はそのデータをケータイで送ることのできる大きさ(相手に迷惑が掛からない程度)に変換し、まず自分のケータイに送って確かめた。いい感じだ。画面が小さいからか、まあまあ見られる写真になった。文章に絵文字は使わない。でも疑問符ひとつくらいならいいだろう。長すぎることのないように気を付ける。改行せず性急感を出す。そして、最後はさらっと終わらせる。
<こんな遅くにゴメン。もう寝てるかな? 僕は眠れなくて眠れなくて。しかたないから夜空を眺めていたら流れ星を見たんだ。すぐにデジカメ用意して待ってたら、また流れたから急いでシャッター切ったら案外きれいに撮れた。はやく君に見せたくて。ほら、星が好きだって前に聞いたことあるから。それだけ。じゃあまた明日>
おやすみなさい、は危険だと思い、じゃあまた明日、と書き直して送信した。
初対面から今迄、一貫して彼女の目は「あなたには興味がない」と発している。
この線からこっちには入らないでね、と。
彼女の吹聴している言葉は、興味がない相手への褒め言葉にすぎない。褒める場所が見当たらない場合の、都合のいい台詞なのだ。
でも、
―素朴な人。
彼女がそう思うのなら、僕は素朴な人間になろう。
―優しそうな人。
彼女がそう思うのなら、僕は優しい人間になろう。
彼女が好いてくれるまで、僕は平気で嘘をつく。
何度でも。
境界線を少しづつそっちへ押していく。
そして、いつか越える。
MAY.30.2009
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