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2008年7月 1日 (火)

彼と彼女と彼女の手紙

 中学生の時、隣の席だった女の子が、あるきっかけで、僕の友達の山本を好きだって知った。彼女は右足が不自由で、杖を持っていないと歩けなくて、そのことがあってか内気で口数の少ない女の子だった。彼女が好きになった山本っていうのは、僕が中学に入ってすぐに友達になったとても明るいいい奴で、当時なんでも話せた親友だった。
 きっかけというのは、薄くキティーちゃんが印刷された小さな紙。
ある日の授業中(なんの授業だったかは忘れた)、彼女が僕の机にその紙を滑らせてきた。その紙にはものすごいマンガ字で、〝山本君って好きな人いるの?〟って書いてあった。僕は〝いないと思うよ〟って書いて戻した。そうしたら、〝ありがとう〟って書いて、また滑らせてきた。僕は〝どういたしまして〟って書いて、また戻した。今考えると、誰にもしゃべらなそうな僕を選んで訊いてくれたんだと思う。
 その日から、僕は彼女の視線が妙に気になりだした。彼女は、いつも山本を見ていたような気がする。休み時間も、授業中も、体育の時間も。見学の多かった彼女は、いつもグラウンドのはしっこで山本を見ていたような気がする。すごく好きなんだろうなって思っていた。
 彼女は山本と話をしたことがなかったと思う。彼女は女の子の友達も少ないようだったし、休み時間は本を読んでいたりしたから(あるいは山本見学)、山本以外でも、あまり人と話しているところを見たことがなかった。
 そんな彼女が、なんだかかわいそうな、なんかそんな気がして、僕は山本に彼女の気持ちを言ってみることにした。山本は優しい奴だから、きっと恋愛感情とまではいかなくても、何か彼女の力になってくれると思ったから。早速僕はそのことを山本に話した。そうしたら、とても意外な、とても残念な答えが返ってきた。
「えー、マジで?気持ちわりー。だってあいつ暗いじゃん。しゃべらないから何考えてるかわかんないし。やだなあ。どうしよう、オレ」
僕は、そんなことない、足が悪いからちょっとコンプレックス持ってるだけだ、みたいな事を言うと、
「おまえ優しいね。あいつのこと好きなんじゃないの?」
と、山本は言った。
 僕はその日以来、山本と一言も話さなくなった。今でも会ってないし、当然話もしてない。僕はそんな友達なら、いらないと思った。
 それで僕は次の日(だったと思う)、ノートの切れ端に〝この間いないと思うって書いたけど、やっぱり好きな奴がいるみたいだ。でも小泉(彼女の苗字)のことは言ってないよ〟って書いて、彼女の机に滑らせた。彼女は〝そう、どうもありがとう〟と書いてきた。僕は〝ごめんね〟と書いて渡した。それでやりとりは終わりだった。
 そのことで、僕もなんだかお勤めを果たしたような気になって、彼女のことも、彼女の視線も全然気にしなくなった。結局僕も、彼女と一言も話をしないで中学を卒業してしまった。今でも僕は、自分の取った行動が、間違っていなかったのかどうか、疑問に思うことがある。

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