2009年10月30日 (金)

ちょっとひとこと

ひとりで歩いている子供を見ると身内でなくとも切なくなる。
でもそれは歩く速度と頭の角度による。

真空管を眺める感覚と、ブライスを眺める感覚は似てる。

どちらの道を選んでも結果は同じことが多い。

うれしくて眠れない、ということが最近ない。

北は演歌、南はフォークの匂いがする。

海苔弁なのに海苔がのってない弁当を食べた。

下駄を履いて歩いたら、平衡感覚の鈍さに気がついた。

読みたい読みたい!!と2回言う人は、絶対に原稿を読んでくれない。

ラジオは声しか聞こえないのがいい。

オートバイで高速道路を走っていると、飛行機を操縦しているような気になります。

前から素敵な女性が歩いてくると緊張します。

電話に「しもしも」と出る人、ちょっと苦手です。

缶コーヒーは微糖しか買いません。

傘を開くとき「エッチスケッチワンタッチ」と心の中で言っちゃってます。

タクシードライバーに「遠いところまで」と言ってみたい。

そういえば、プリン作りに凝っていた時期があります。

猫に鼻を鳴らされた。

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2009年10月 8日 (木)

紺色の風にゆれる

紺色の風にゆれる

 水辺で石ころを蹴ったら、ぽちゃんと音をたてて沈んだ。
「わたしにもできるよ」
 知らない子供がわたしに近づいた。女の子だ。
「こうやってけるんだよ」
 小さい足で、わたしよりも遠くに石を飛ばした。
 この子に教えてもらおう。遠くへ飛ばす蹴り方を。
「そのくらい、僕にだってできるよ」
 もうひとり、やっぱり知らない子供が近づいてきた。今度は男の子だ。
「こうやってけるんだよ」
 女の子よりも、遠くへ飛ばしてみせた。
 わたしは驚き、女の子ははしゃぐ。
 彼は、どうだと言わんばかりに指で鼻をなでる。
 女の子は言う。
「ねえ、おにいちゃん。わたしにもおしえて」と。
 わたしも教えてもらいたい。
 でも、声が出ない。
「いいけど、むずかしいよ」
 適当な大きさの石を拾い集め、女の子に渡した。
「おねえちゃんは?」
 大きく頷くと、彼はわたしのてのひらへ丁寧に石をのせた。
「さあ、やろう。まずはこうだよ」
 言う通りに石を置いて体勢を整えた。
 その時だった。
 池の向こうから、誰かが叫んだ。
「石を蹴るのはやめなさい!知らない人同士、じゃれあうのはやめなさい!」
 誰だろう。
 この子たちの母親か。でも、それは違うらしい。
 反応を見ればわかる。
「さあ、はやくそこから離れなさい。はやく!」
 女の子は思い出にと、石をひとつだけ握って走り出した。
 男の子は集めた石を四方八方に蹴り飛ばして、何も言わずに走りだした。
 わたしは彼に手渡された石の全部を握りしめ、向こうから叫ぶ女を見た。
 彼女は明らかに攻撃的だった。
 しかしそれと同時に、その目は何かに脅えていた。
「あなたはそこで何をしているの?さっさと消えなさい!」
 紺色に漂う空気が紺色の風を起こし、全ての風景がその中でゆれた。
 彼女は、わたしに向かって石を投げた。
 どの石も、池の中に消えていった。

SEP.10.2009

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2009年10月 5日 (月)

消去という選択

消去という選択

400メートル走ったら息が切れた
風に乗る土の匂いに倒れそうになるけれど
空を見上げてでかい声を出す
向こうから勝手に会いに来るから 僕はそれを受け止めるだけ
障害になるのなら それを切って行くだけ

僕のやり方が間違っているというのなら見なければいい
完全が欲しいのなら 求めず君の手で創ればいい

空を飛ぶ鳥が僕を見下ろす
スピードの違うその世界で どちらが優位なのか競うより 
いっそのこと無視できるのなら
ためらいを蹴飛ばしていく

あの時やってきた真実が背中を押す
それは振り向くと簡単に僕を押し返すけれど
耳を塞いで風の音を聞く
鼓動がかすかな音さえ求めるなら 僕はそれを受け止めるだけ
消えそうになるのなら それを共鳴させるだけ

僕のやり方が間違っていたというのなら探らなければいい
完全が欲しいのなら 迷わず他の道を選べばいい

この場所から何が見えるか。
今の僕には理解できない すべては向こうの世界という事実
いっそのこと無視できるのなら
何が見えるのかを知りたい

切り崩した残骸につまづくけれど転ぶことはない
続くかぎり もがいていく

それでも準備はできている
湧き出る真実をすくえないなら全てを消そう
風が雲を飛ばすように 風が青い空を呼ぶように

デリート5秒前

でもそれは 全部僕が決める

OCT.05.2009

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2009年9月18日 (金)

いっしょに帰ろう

いっしょに帰ろう

 問題を解きながら、斜め前の席にいる浩平くんが気になる。
5年生でいられのも半年足らず。ということは、あと1年半で中学生になるわけだ。信じられない。
 ハハの口癖は(ハハというのはお母さんのことだ。こう呼べと言われているからこう呼ぶ)「もうおねえちゃんなんだから・・・」だ。なにかにつけて「しっかりしなさい」とねっとり言う。そして最後にこう付け加える。
「体だけは大きくなって」と。
 浩平くんは最近、日増しに大きくなっているような気がする。気がするだけではない。ほんとに大きくなっているのだ。
 初めて同じクラスになった3年前は、私よりも背が小さかった。髪型もいわゆる坊ちゃん刈りで、お世辞にもかっこいいとはいえなかった。それが最近、目に見えて変化している。
 お酒を飲むとチチがよく(これはもちろんお父さんのことだ)「スーパーサイヤ人になっちゃうかもよ、チチは」なんてふざけて言うが、浩平くんはほんとに髪が逆立ちそうな勢いで背が伸びている。でも、今の髪型は坊主だが。
”ねえ、きょうゎお母さんがrvcarで迎えにきてくれるけど、一緒に帰る?”
 みんな頑張って先生についていこうとしてるこの進学塾で、のんきなのはココロちゃんだけだ。でもそんなココロちゃんがいるから私は安心してる。なんだか、ココロちゃんには負けないような気がするからだ。
”歩いて帰るwink ありがとgood
 机の下で返信したら、すぐに”オッケーweep”と返事がきた。
 私は私立中学へ進学するつもりはない。
 じゃあなぜここに通っているのかというと、ハハからの頭を鍛えろという命令に従っているだけだ。
「今鍛えないと将来後悔するの。だからあの塾へ行きなさい。でもうちにはお金がないから私立は無理よ。公立で気合入れなさい」
 と訳のわからないことを言われ、でもまあ、友達もたくさん通ってるあの塾なら楽しいだろうなという安易な気持ちで入ったのだ。
 ところがいざやってみると、楽しいとはとても言えない厳しさだった。どんどん進む授業、緊迫した生徒。てきとうに学校気分でやってきた私は初日で打ちのめされた。
 ここには私のように進学しないひとはいないだろう。たぶん私ひとりだ。だから、ココロちゃんがとても不思議なのだ。なんであんなにのんきなんだろうと。
 浩平くんは頭がいい。
 勉強はもちろん、なんだかいろいろなことを知っている。
 虫のことだとか、なぞなぞとか、星のこととか。
 ついでに絵もうまい。このあいだ浩平くんの教科書を見せてもらったら、かわいい馬の絵が書いてあった。
 どんな本を読んでいるんだろう。どこからその知識を持ってくるんだろうなんて考えていたら、もう授業に集中できなくなって、しかたないので机の下でメールの削除に没頭した。ケータイの電池が切れそうだ。
 授業が終わったと同時に、質問時間の始まり。質問のないひとはそのまま帰り、私はもちろん帰り仕度。

 外は雨だった。
 かなり強い雨だ。道路にはお迎えの車がたくさん止まっている。
”今から迎えに行くから入口で待ってなさい”
 ハハからのメールを見た時、後ろから突然背中を叩かれる。
「雨じゃん。乗ってきなよ、車」
「お母さん迎えにくるっていうから。ありがと」
「そ、じゃあまた明日ね」
 ココロちゃんはカバンを傘代わりにして車まで走った。
「うわ、雨じゃん。どうしよ」
 階段から降りてきた浩平くんが私の隣で立ち止まった。一瞬私に言ったのかと思ったが、どうやらひとりごとらしい。
「いまからお母さん迎えにくるけど、傘貸してあげようか」
「いや、いいよ。そのへんのコンビニで立ち読みしてるから。そのうちあがるよ、この雨」
 ココロちゃんと同じようにカバンを頭の上に持ち上げて、浩平くんは走って行った。
 それにしても、なんとも浩平くんらしい分析だ。言い切るところがかっこいい。
”ごめん、渋滞してる。もう少し待ってて”
 ハハからのメールを受信してすぐに電池が切れた。
 目の前の道路でも車が渋滞していて速度が遅い。

 結局ハハが着いたのは、それから20分後だった。依然として雨はどしゃぶりだ。私もみんなと同じようにカバンを頭に、車へと走った。
「ごめんね、すごい車の量。突然降るんだもんね、みんなお迎えだよ、きっと」
 ハハはゆっくりと車を走らせた。あてにならないね、天気予報、と言いながら。
 いつも歩いているこの道も、車から見るとなんだか違って見える。いろいろなものが雨で濡れているからよけいにきれいに見える。魚屋さんの看板ですら、おしゃれな雑貨屋さんのそれに感じるから不思議だ。
 道沿いにあるコンビニに浩平くんがいた。雨に濡れるガラス。
「ねえハハ、友達見つけた。乗せてもいい?」
 私は車から降りてコンビニへ走った。でもこのまま中へ入って「乗ってきなよ、車」と言ったら、なんだか探していたみたいで恥ずかしい。
 ポケットからお金を取る。10、20、30、お、100円玉。お、500円玉。
 浩平くんのケータイ番号は覚えてる。覚えようとしたから、覚えてる。
 使ったことはないけれど、いくら入れてどのくらい話せるのかわからないけれど、入口にある公衆電話で浩平くんに電話しよう。
 お母さんが一緒に乗っていきなと言ってると、そう言おう。
 私は偶然ここにいたことにして、なんだ、ここにいたんだ、なんて驚いておこう。

 ガラスの向こうに浩平くんがいて、初めて手に取る受話器がとても重く感じて、、背中にはハハの視線を感じて。

 その全部が、なんだか暖かかった。

SEP.18.2009

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2009年9月14日 (月)

新しい音

新しい音

夕暮れの道で空き缶を蹴ったら、からんからんと音がした。
それを走って追いかけて、もう一度蹴ってみたら、やっぱりからんからんと音がした。

なにかほかの音が欲しい。
なにかほかの音が欲しい。

夕焼けは赤いし、だから雲は光ってる。
もう一度蹴ったら、今度は違う音がするだろうか。
しなくても、何度も蹴れば、いつかは他の音が出るだろうか。

遠くに誰かがいる。

はずかしいから、蹴るのはやめる。
「ねえ、その空き缶使わないならちょうだい」
後ろから知らない男の子に話しかけられる。
使うといえば使うし、使わないといえば使わないんだ、と言いかけてやめた。
「いいよ、あげる」
表情を変えずに空き缶を手に取り、彼は走りだした。
遠くにいる誰かのもとへ。

彼ならあの空き缶で、新しい音を出してくれそうな気がする。
根拠はなにもないが、ただそう思うのだ。

僕は振り返り道を戻る。
後ろから僕を呼ぶ声がする。
それが誰の声なのか、もちろん僕にはわからない。

もちろん、わからない。

この夕焼けが終わって夜になれば、向こうに見えるビルの大群に多くのあかいほたるを見ることができる。
それを手に取ることができるのなら、僕のてのひらでもあかく点滅するのだろうか。
それとも、動きを止めてしまうだろうか。
どちらにしても、僕は慎重にならざるおえない。

空き缶の彼と知らない誰かは、あかいほたるに気づくだろうか。
気づいたとして、僕と同じように手に取りたいと思うだろうか。

「そのあかいほたる、僕にちょうだい」

無表情な彼の声を、こんな台詞に置き換えて考えてみる。

乾いた風が走り抜ける。
独特な秋の風だ。

風は何かを運ぶ。

それは物質であって物質でなく、重くなく軽くなく。
音を立てずに運び続けるのだ。

あかい点滅は、僕にとって風なのかもしれない。
物質であって物質でなく、重くなく軽くなく、音を立てずに運び続けるような。

かすかに空き缶を蹴る音が聞こえる。
その音も秋風が運んできたのだとしたらどうだろう、すてきだろうか。
誰もがそう思うだろうか。

彼のステップが手に取るようにわかる。
知らない誰かが傍にいる。
日は落ちようとしているのに、僕は光を感じる。
暖かな光を。

僕はもう少し、ここにいる。
そして、もうすぐ見えるはずのあかいほたるを、静かに眺める。

ゆっくりと、この場所で。

SEP.14.2009

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2009年8月19日 (水)

**年目の恋心

**年目の恋心

あんなに約束したけれど 幸せには程遠いかもしれない
明日はあの娘の門出だから 今日は少し 一緒に飲もう
少しでいいというのは あの頃から変わらないね
小さなグラス 僕にはとても大きな存在なんだ

あの娘は明日 僕たちになんて言うだろう
お世話になりました と言ってくれるだろうか 泣きながら
「なにも言わないよ 私だって言わなかった」と君らしい
かわいくて 何度も何度も頭を撫でた そんなことを思い出す

あたりまえのことだけど
君にも若いころがあって
そこに僕を迎えてくれた
あの娘が教えてくれた そのことを

彼のことを いい奴だと思っている
君の気持がよくわかる

明日からはふたりきり
僕とふたり 話すことある?
少し恥ずかしいから 無口になりそうだね お互い
君を泣かせてばかりだったけど これからもそうだけど

どうしよう これからは
なんて呼べばいいだろう
名前を呼ぼうか
でもやっぱり照れるから きっとまだ「おかあさん」でいいね

*

変化に富まない日々だから あなたは退屈なのかもしれない
お隣にこれを頂いたの うわさのお菓子 一緒に食べよう
少しでいいというのは あの頃から変わらないね
小さなかけら 疑うような食べ方が好き

あの娘は明日 私たちになんて言うだろう?
なにも言わないよ 私だって言わなかった きっとそう
「やっぱりそうか それを聞くのが夢なのに」とあなたらしい
かわいくて 何度も何度も抱きしめた そんなことを思い出す

あの娘たち幸せそう
ドレスなんてなんでもいい
あの娘の笑顔をみられるだけで
素敵な思い出にしたい そのことを

彼のことを いいひとだと願っている
あなたの気持がよくわかる

明日からはふたりきり
私とふたり 後悔してる?
聞くのが怖いから 無口になりそうだね お互い
あなたを困らせてばかりだったけど これからもそうだけど

どうしよう これからは
なんて呼べばいいのかな
名前を呼ぼうか
でもやっぱり照れるから もうずっと「おとうさん」でいいね

ふたりで始めた生活 また初めに戻るだけ
なにも変わらない 穏やかな日々
あの娘がくれた思い出を ひとつひとつ紡ぎながら
これからふたり いつまでも
一緒にいよう。

AUG.19.2009

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2009年8月17日 (月)

サークルゲーム

サークルゲーム

矛盾と可憐に満ちた君へ
騒いだ洞窟の中から光の闇へ解放つ
不安と喧噪の間から生まれる心は
僕らを結びつけるのに充分な要素

僕についてこられるか
僕についていきたいか

さあどうだい?

だめなら、僕が君についていく

潤いに証明された欲望に結びつく鮮やかな兆候
神秘の愛情を手に入れる無条件の閃光

それだけで僕は君を
それだけで君は僕を
中心の内側から突き刺す

光は闇へ
闇は光へ

行くも行かぬも
止むも止まぬも

悠久の彼方に回転し続ける
サークルゲーム

AUG.17.2009

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2009年8月14日 (金)

無題

無題

いつもの道もあの道も あなたと一緒ならなつかしい道になる
道端の花をきれいと思う あなたと一緒ならあざやかに映る
町も空も きらきらと

朝焼けはひとを勇気づけるというけれど そうは ならない時もある 
大切な人のもとへ帰るあなたに 近づけないわたしがいる

こんなにも自然なことなのに せつなく歩幅が離れてく
今のわたしに 失うものなんてなにもないと思うのに

人生はおだやかじゃないけれど それだけじゃ疲れることがある
平坦はつまらないと思うけれど つまずくのがこわいから遠ざかる

なにか言おうと思っても 言葉にしたら嘘になる
待ってない いいひとがいないだけ

さあ行こうと言って あなたから
あなたの背中をみたいから

ふたりでよく遊んだ川べりに すわって眺める光る水面
こっちはどう?なんて聞かないで
見える景色と足元が 音をたてて揺らぐから

夕焼けはひとを素直にするというけれど そうは なれない時もある
大切な人のもとへ帰るあなたに そうは なれない時がある
 
金星を南の空に見つけたから あなたと手をつなぎたい
今のわたしに 失うものなんてなにもないと思うから

運命は変えられるというけれど こんなに小さい勇気じゃ変えられない
夕日が心に痛いけれど こんなに大きい気持ちじゃ立ち上がれない

なにか言おうと思っても 本音が心にふたをする
あなたより いいひとがいないだけ

もう行こうと言って あなたから
星空は見たくないから

そして あの交差点で手を振るから

AUG.14.2009

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2009年7月31日 (金)

唸る山

※この文章には、青少年の閲覧に適しない性表現、残虐表現、暴力表現が含まれております。
 18歳未満の方の閲覧は、ご遠慮ください。
 また、成人の方に対しましても以下の理由により、閲覧にあたってご注意ください。

 1)意図を誤解される恐れのある過激な犯罪の描写
 2)閲覧者に不快感を与える可能性のある描写

**********************************

唸る山

 山は唸っていた。
 風が木を揺らし、それがいくつも重なった山の唸りだ。
 この遊歩道をまっすぐ行けば、奥まで行ける。途中で砂利道が終わり、土になる。草に覆われてきて道がわかりにくくなる。やがて道はT字になる。左へ曲がれば頂上へ向かい、右へ曲がれば町へ出る。最後に自動販売機を見たのは約500メートル前くらいだ。時間にして15分くらい前。ここまでくる人間は、ほとんどいない。
「ねえ、この先になにがあるの?」
 隣で彼女が言う。別に何もないが、不安にさせてはいけない。
「いい景色が見られるんだ」
 見たことのない花が咲いている。晴れているのに、土が濡れている。山の匂いはいつも湿っている。
 道が狭くなる。並んで歩いていたが、僕は彼女を先に歩かせる。
「姿が見えてないと怖いからさ」
 後姿見られてんの、やだな、と言いながらも、素直に僕の前を歩く。
 彼女の背中を見つめる。形がいい。全体的に小ぶりだが、無駄な肉がついていない。スタイルは良い方だろう。
 風が吹く。山が唸る。そのたびに彼女が振り向く。
 いつでも追い風だ。僕らの背中をどんどん押す。
「これどっち?」
「左」
 怖い?と聞くと、少しと答える。それを何度も繰り返している。
 視界が少し開けた。木々の間から向こう側の山が見える。
「あ、きれい」
 僕は辺りを見回して、誰もいないことを確認した。
 彼女を背中から抱きしめる。抵抗はない。体を密着させて、うなじに鼻をつける。彼女は首をかしげて僕を受け入れる。左手で彼女の首筋を、右手で左胸を撫でる。
「ほんとに誰も来ない?」
 彼女は目を閉じたまま小さな声で聞く。
「来ないよ」
 きのうもここまで来たけど誰もいなかった、とは言わなかった。
 手入れのされていないこの山は、遠足場所にも選ばれない。遺跡の類もないから、研究者も来ない。鬱蒼としているから、子供は立ち入らせない。夏の肝試し、あるいは金のない奴らの性交場だ。しかし、今ではそれすら危ういかもしれない。
 彼女の太腿に手をやる。ジーンズの上からでもその柔らかさを感じる。そのままベルトをはずす。そしてTシャツを脱がせた。
「ちょっと、ほんとに平気なの? ここ」
 僕はなにも言わず、彼女を振り向かせてキスをする。
 長い時間、舌を絡める。くちびるを吸う。
「ねえ、息が出来ない」
 まだまだ、これからだ。
 キスをしながら、僕は視線の先にある1本の木を見る。枝に白いロープが掛けてある。先は丸めて結んである。重力に逆らわずに力が加われば、その丸は小さくなるように結んである。ここから20メートル先くらいか。
 彼女が両手で僕の頬を持ち、キスを遮る。
「やっぱり、だめ」
 彼を裏切れない。後に続くであろうこの言葉を、僕は頭の中で何度も繰り返す。
 やっぱりだめかれをうらぎれない・・・
 僕は彼女の髪に手をやる。今日だけ、今日だけでいいんだと、心の中で言う。彼女には届かない。
「ね、帰ろう」
 と彼女が言う。
 しかし、もう一度抱きしめたら、「もう、」と言いながらも抵抗はしなかった。
 山が唸っている。風が僕達をよろめかせる。
 その時初めて、彼女が強く僕を抱く。抱きつく。
 ブラジャーを剥ぎ取ると、そのままふたりは倒れ込んだ。
 もうすぐだ。もうすぐ終わりだ。出るんだ。僕達はもうすぐ、ここから出るんだ。違う世界が両手を広げて、僕達が出るのを待ってる。
 僕の動きに彼女は合わせる。深い、とても深いところで、僕達はひとつになる。
 風が唸っている。
 白いロープを目指して、少しづつ近づく。
 今僕を締め付けている彼女の存在が、だんだん薄く感じるようになる。軽い。もう少しすれば、簡単に持ち上げられるだろう。
 いつか僕も行く。でも今は、君が行くんだ。先に、君を行かせるんだ。
 彼女が甘美な声を出す。
 僕のところに戻ってきたいなら、このまま繋がっていてもいい。でも、もう遅いのかもしれない。君は言葉を発しないのだから。
 僕の手はもうすぐ、白いロープに届く。

JUL.31.2009

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2009年7月22日 (水)

遠くへ

遠くへ

 帰りの学活はかったるい。
 今日の反省だの来週の予定だのそんなのどうでもいい。みんなプリントもらってるんだろ?世間一般が思うほど中学2年生はヒマじゃない。こんな天気のいい日は早く帰りたい。
 おまけに担任はうざったい。寝てねえか?聞いてっか?を連発しながら歩くただの猿だ。
 机にほっぺたをくっつけてみる。冷たくて気持ちいい。ついでに反対も。窓から青い空が見える。鳥が飛んでる。気持ちいいんだろうな、なんて考えてみる。鳥のように大空を飛んでみたいってネットに書いたら、鳥はものすごい力を使って何百何千と翼を動かしてがんばって飛んでるんだって誰かが書いてきた。
<キミはがんばって歩けてるのか?>と。
 よその畑は青くみえるんだって母さんが言ってたのを思い出す。
 みんな考えすぎじゃない?オレは「飛んでみたい」だけだ。ただ飛ぶだけしか能のない鳥になんてなりたくない。
「ところで、急な話でみんな驚くだろうが、今井が転校することになった」
 担任の言葉にオレは飛び起きた。
 今井佳奈は近所に住む幼馴染だ。近所なのに今初めて知った。
「お父さんの仕事の関係で熊本に行くことになった。だから今日が最後だ」
 え~、という声が教室中に鳴り響く。なんで教えてくれなかったの~、とか、ひどい~、とか。
 だからさっき担任が言ったろ?急な話なんだよ。それにひどいと思ってるのはおまえらだけで、当の本人は友達と思ってないかも しれないんで。
 担任に促されて今井佳奈が前に出る。一般的な当たり障りのないありきたりな別れの言葉を告げ静かに頭を下げたら、なぜかみんな拍手した。意味不明な行動だ。
 じゃあね、元気でね、とそれぞれ言葉を交わしながらみんな教室を後にしたが、今井佳奈は書類やなんかが担任から渡されるとかで教室に残された。
 オレは廊下の壁に寄りかかってポカリスエットを飲む。
 視線の先にある小さな窓から中を見ると、今井佳奈は窓から外を見てた。全開の窓から夏の風が入ってきて、彼女のスカートをはためかせる。あいつ、背が伸びたな、と思った。
 よくいじめた。でもなんでも一緒にやった。あいつはよく泣いた。でもよく笑った。中学に入った頃から笑わなくなった。オレとも話さなくなった。
 髪がきれいだ。色白だけど、不健康には見えない。
 彼女のお父さんは実業家なのだと聞いたことがある。家は大きくて敷地も広い。うちなら3軒くらい余裕で建つだろう。そんな話をするたびに 母さんは、「お父さんももうちょっとこう、なんていうか、稼いでほしいよね」と愚痴った。「まあ、お金って、あったらあっ たでそれはまた大変なんだろうけど」とも。
  飲み終わったポカリスエットをゴミ箱に投げたら、その音で今井佳奈が振り向いた。
「なあ、おまえケータイ持ってる?」
 ポケットに両手を入れたままドアのところにもたれ掛かってオレは言った。
「持ってない」
「パソコンは?」
「持ってない」
 メアドなしか、と落胆する。
 彼女はオレを見ていて、オレも彼女を見ているけど、その視線と無言に堪えられなくて黒板を標的に変えた。
 なんか風に乗っていい香りがする。
「もうこっちにはこないの?」
「わかんない」
 オレの質問に彼女はことごとく即答する。それだけで、妙な威圧感を受ける。そう言えば今井佳奈と話したのは1年ぶりだ。
「あのさ、」
 と、せっかく彼女がなにか言いかけた時、うざったい担任が勢いよく教室へ入ってきた。
 なんだ、オマエまだ残ってたのか、早く帰れ、あ、 今井わりい、職員室一緒に行こう、あっちに全部揃ってるらしいから、書類、と鼻息荒く担任は今井佳奈の手を引いて早足で教室を後にする。オレは廊下に出てふたりが歩いて行くのを眺めた。彼女が振り向くかと思ったが、結局最後まで振り向かずに階段へ消えた。
 ドアを蹴飛ばして教室に戻る。
 もう誰もいない。
 彼女が使っていた机に手を置いてみる。さっき彼女が手をついていた窓から外を見てみる。同じ景色と同じ風。
 外に向って何回も唾を吐く。遠くへ。もっと遠くへと。
 振り向くと机はバラバラ。掃除したのにゴミは散乱。いいや、窓開けたままで。
 黒板に近づいて白いチョークを手に取る。猿の担任がよくやるように、カンッ!と1回チョークを黒板に当ててみる。
 そのまま”今井佳奈”と書こうと思って、やっぱりやめた。

JUL.22.2009

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